深夜、ヘッドホンから

ここのところずっと聴いている曲がある。HOSEというバンドの「Piano」という曲。深夜、飲み屋からの帰り道、俺はiPodに入れたこの曲をなるべく大音量で聴くことにしている。最近では、ふと口ずさんでしまうこともある。そうやって口ずさむことで、俺は自分もこの曲のコーラスに参加しているような気持ちになる。
歌詞の一部。

すがる杖もなく
空を飛ぶ羽根もなく
しゃがみこむ床もなく
もたれかかる壁もない

もしも世界があるのならば
人型のかたまりが
ある体積占めるほかに
存在する意味はなに?

そして僕らは消えてゆく
限られた時間をへて
たとえピアノが弾けたとて
死はひとしく訪れる

感傷的な歌詞だよね。でもね、この後に訪れるクライマックスに、俺は不意打ちを食らったんだ。
「るるる〜」とスキャットが続く。すると、突然誰かがスタジオの床を踏みしめる音が聞こえる。それは「かそけき」と表現したくなるような音だ。その誰かがコーラスに加わる。足音、衣擦れ、ドアの開く音? そして何人もの声が重なり合う。
孤独を歌う歌詞、でもそのことに反駁して世界があることを納得させるのではなく、ただ世界があることを示す。ああ、音楽ってこんなふうにして世界を表現できるんだ。
そして、最後にとてもとても世俗的なある出来事が歌われる。愛とか恋じゃないよ。なんかもっと即物的なこと。それがなんなのかは、是非CDを買って確かめて欲しい。でも、それはあのコーラス隊の衣擦れの音を耳にしてこそ感動的になる。だから、俺はいつも深夜にヘッドホンでこの曲を聴いているんだ。
http://hose.hibarimusic.com/?p=5