ふと思い出した

きっかけは記さないが。
15年ほど前(だと思う)、ガス・ヴァン・サント監督の『カウガール・ブルース』が公開される前に、俺はトム・ロビンズによる原作を翻訳で読んでいた。当時、仲のよかったOという男はなぜか翻訳文学を敬遠していて、お互いの誕生日にそれぞれが普段読まない本をプレゼントし合おうと約束をして、俺は彼に『カウガール・ブルース』を贈ったのだった。ちなみにOが俺にくれたのは『ねじまき鳥クロニクル』だった。
『カウガール・ブルース』のどこが気に入ったのか、すっかり忘れているのだが、親指の大きなアウトサイダーの主人公が出会う牧場の女性にとても惹かれたことは漠然とおぼえている。そして、当時俺はこの本ともう一冊、ジュリアン・バーンズの『10 1/2章で書かれた世界の歴史』を気に入っていた。同じ著者による『フローベールの鸚鵡』も読んだはずだ。
不確かな記憶なので間違っているかも知れないが、当時高橋源一郎がさまざまに言及している同時代の作家の中に、トム・ロビンズジュリアン・バーンズも入っていたと思う。しかし、そこそこ受け入れられたジュリアン・バーンズに対して、トム・ロビンズの作品がその後翻訳されることはなかった(それより以前に『香水ジルバ』が翻訳されている。これは、俺も読んだが、まるで印象に残っていない)。
当時の俺はよっぽどトム・ロビンズが気になったのだろう。高田馬場駅前の本屋(店名を失念してしまった)で、ペーパーバックの『Still Life with Woodpecker』を買って、つたない英語力で半分ほど読んだ。内容は覚えていないんだけど……面白かった、と思う。なによりタイトルのセンスが好きだった。比較するのはどうかと思うけど、『重力の虹』みたいな、相反する性格の単語を並べたタイトルが、いかしているように感じた。
去年か一昨年、ある飲み会でやはりトム・ロビンズを気に入って、僕のように『Still Life with Woodpecker』を読んだ人と出会ったことがある。
もう一度、今度は最後まで読んでみようかと、ふと今夜思ったのだった。