マトモ帝がひざまずいた日

文学フリマの告知、ちゃんとできないまま当日を迎えてしまったわけですが……。
当日、僕が会場をうろうろしていたら、みすぼらしい老人(推定年齢92歳)が俺に話しかけてきたんだよ。知らない老人なので、ちょっと警戒したんだけど……。「ワ、ワスが……」と呟いている。あれ? もしかして! 俺は恐る恐る聞いてみたんだよ。「もしかして、あの……有名映画ブロガーの『マトモ帝』さんですか?」。頷く老人。最近ではいろんな年齢の人がブログをやってると噂では聞いていたけど、俺が散々敵対視していたブログ「マトモ帝なんちゃらかんちゃら」(いつもタイトルを忘れる)のブログ主がこんなお年寄りだったなんて……たぶん『男はつらいよ』なんて全作観ているんだろうな……。
で、話を聞いてみようと思ったんだ。そうしたら、「金が……金が足りない……飯を食う金もない」っていうんだよ。要領を得ない話し方だったので(ブログ自体もそうだけど、本人はもっとだったよ)、簡単にまとめると、以下のような話らしい。
「千葉島から本州まで半年かけて辿り着いた。しかし誰もやとってくれない。ワスがあの『マトモ帝』であることを言っても、誰も信じてくれない。結婚式場などでご祝儀泥棒などをして食いつないでいて、今日は文学フリマで泥棒をしようと思った。『Bootleg』という同人誌が大変な売れ行きであるようなので、店番を買って出たが、恐ろしい顔をした(ちょっと侍っぽい)人に追い払われてしまった。今日の稼ぎはまだないんだよ」
俺は老人にはやさしい男なので、金をあげたかったけど、あいにく現金は持ち歩かない主義(いつも小切手)なので、迷った末、食べかけのおにぎりをあげたんだ(事実! この文章全体が事実なんだけど、おにぎりのくだりは真実という意味で事実!)。
そうしたらさ……マトモ帝が俺の前にひざまずいて、涙を流して言うんだ。「是非、是非、あなたの下僕にしてください。なんでも言うことを聞きます。是非、あなたの住む町の片隅に居場所をください」。で、俺が可哀そうに思って、そういえば西荻善福寺川の橋の下にちょうどいいスペースがあるな、と思って、そう提案したんだ。
そうしたら、「西荻! ワスの大嫌いな西荻! そんなところに住むくらいなら、死んだ方がましだ!」なんて激昂しはじめちゃってさぁ。恩知らずだな〜と思ったけど、俺は黙ってたよ。老人だし。
結局、マトモ帝は悪態をつきながら、「これからバイトに行かなくては!」と言いながら、会場をあとにしたんだけど、そのとき俺のほうを振り向いて、「おぼえとけ、この空中キャンプ野郎!」って叫んでて、あーなんか勘違いされてるな、親切な人=空中キャンプって思ってるんだろうな、なんて思ったけど、俺はやっぱり黙ったまま手を振って見送ったよ。