楽しい週末

金曜日。
ブラジル人のMに誘われて、青山でやっているexhibitionのオープニングパーティに出かける。でも、なんの展覧会なのかはわからずじまい。だってずっと飲んでただけだから。
パーティで知り合ったPという40代の青年(とあえて言わせてもらおう)と盛り上がったのは、「What's your favorite movie?」と質問されて、「The Texas Chainsaw Massacre」と答えた瞬間。Pは慌てて自分のブラジル人の恋人を呼んで、「おい、聞いたか? こいつ『悪魔のいけにえ』好きなんだってさ! すげえクールだぜ(意訳)」というようなことをフランス語でまくしたててた。「いつかテキサスに行って、本物のきちがい一家を見てみたいぜ!」などとほざく彼は、『死霊のはらわた』チックな短編映画を作ったことがあるらしい。
三池崇史深作欣二が好きだとも言っていた彼は、しきりにフランスの映画業界の状況に嫌気がさしているらしく、「intellectualな映画ばっかしで、面白い映画の企画がなかなか通らないんだ」と嘆いていた。フランス人からすると、日本というのは、とにかくエンターテイメント志向の映画を量産しているアメリカ以外の数少ない国というイメージであるらしい。
でもさ、フランスってシネマテークで昔のアメリカ映画が観れたりしていいじゃん、というと、それはパリのいいところだよ、と頷いていた。
お互い、いいところばかりが見えるのかな?
西荻に帰ってきて、ちょうど会社帰りだったS女史とミルチへ。


土曜日。
ユーロスペース瀬々敬久監督『ユダ』、シアターイメージフォーラムロブ・ゾンビ監督『マーダー・ライド・ショー』を観る。
『ユダ』。「ガキどもよ、お前たちの生き方は間違っていた。だがそれでも、俺はお前たちを肯定する!」という思いが伝わってくる。一緒に観たS女史は、「わかりやすい映画でも、感情移入できる映画でもないけど、観た人といろんなことを語りたくなるいい映画だった。他の瀬々監督の作品も観てみたい」と言っていた。そうだよな! 俺は、知恵遅れの青年が、車の窓を割って主人公たちを助けた場面で、「金、金よこせよ」と言うところで、笑いながら、あとで泣いた。その場面と、その後の彼らの友情について、飲みながら喋りたいよ。
マーダー・ライド・ショー』を観ると、ハードロックとホラー映画がいかにして人間の知性を奪うかがよくわかる。素晴らしい映画だった。邦題は正しく内容を伝えている。ホラー映画のクリシェの表現とキャラクターと雰囲気をひたすら羅列する。俺が思うに、『スクリーム』よりも志が高いのは、観客を不快にしてやろうという積極的な意志が感じられるところ。それこそホラー映画を観るマニアが求めるものだ。世間の良識ある連中に糞のかたまりを見せつけてやりたい!という思春期特有の偽悪的な精神がてんこもりだった。


その後、吉祥寺の「チャオ☆チェンマイ」で軽食をとる。この店、こないだまで西荻にあった「シュエダゴン」が移転してできたお店。タイ人のマスターは俺とS女史をおぼえててくれた。店の雰囲気は明るくなって、おしゃれなカフェのようだった。料理はちゃんと辛いし、おいしいし、オススメです。
西荻に戻って、ミルチ→タルタルーガ→クラップと飲み倒す。


日曜日。
下北沢で髪を切る。美容師のWさんはちょっと面白い。「『隣人は静かに笑う』はいままで観たなかで一番不快になった映画だ」と言ってから、S女史に「観てよ」と勧めていた。


小金井公園江戸東京たてもの園の前で、「第26回 小金井薪能」を観た。
狂言は「清水」。主の野村万之介が、俺はお気に入り。萬斎よりも色気があると思う。
能は「安宅」。能を観るのは二回目だから、まだどう楽しめばいいのかよくわからない。先入観にある能とは違う、ダイナミックでスピーディーな動きに驚く。
橋掛かりのすぐ横のとてもいい席で観たんだけど、野外でやる薪能だから、少し離れたところから、会場全体の雰囲気を楽しめばよかったかな。