『マジック』

傲岸不遜な吸血鬼エリート=レクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスが、気弱なマジシャンを演じるサイコスリラー。これが泣けた。


冒頭のエピソードがまず泣かせる。病に倒れた師匠の看病をしながら、自分の舞台の報告をするアンソニー・ホプキンス。「客は大ウケさ」と強がってみせるけれど、実際は寒いものだった。「カードを使わせりゃ、俺の知ってる中でトップ3の腕前があるんだがな」と師匠はアンソニー・ホプキンスの実力を認めながらも、「でも、舞台は散々だったんだろ」と見抜いてしまう。
そう。あまりに客がマジックに無関心なので、アンソニー・ホプキンスは舞台の上で、「これがどんなに難しいマジックか、お前らわかってるのか!」と逆ギレして怒鳴り散らしてしまう。
……。
哀しい奴じゃないか。プライドばかり高く、芸人としての実力のなさ(客をわかせる技術のなさ)を棚にあげ、世間の無理解に腹を立ててばかりいる。
痛いよ。


そんな主人公が、最高の相棒を見つける。腹話術人形のファッツだ。こいつがまたいいんだ。おどおどとした主人公と正反対の性格で、軽妙な話術が得意で、少しばかり下品なギャグを連発してご婦人方を笑わせる。
もちろん、それはアンソニー・ホプキンスの、もう一つの人格なんだが、次第に人形の人格は独立したものになってゆく。逆に、本体であるはずのアンソニー・ホプキンスは人形の言うなりになってしまう。このへんの、アンソニー・ホプキンスの熱演っぷりは素晴らしい。『羊たちの沈黙』は、言ったら突っ立ってるだけだからな(ま、それで成立するのが、すごいんだが)。人形の命じるままに、床を犬のように這う場面なんて、哀しみがモニターからあふれ出ていたよ。


ラスト、愛する女との逃避行に失敗し、その上瀕死の傷を負ったアンソニー・ホプキンスに「あんたは独りぼっちなんだよ」とファッツが言う場面。俺は泣いたね。


ところで、ふと思いついた三本立て。サイコスリラーナイトとしていかがでしょう。

  1. 『十番街の殺人』
  2. 『マジック』
  3. 羊たちの沈黙

あ、リチャード・アッテンボローアンソニー・ホプキンス、サイコスリラーというつながりね。