ふと思い出したことなど

ビッグコミックスピリッツ』が苦手だ。毎週立ち読みしてるんだけどね。ホイチョイのやつとかなんとか80ズとか、駄目。伝染るんですとかくまプーとか好き。コージ苑面白かったな。「我輩はウンコである」とか実存君とか。おいしんぼ、駄目。
毎週、世話になってるような、なってないような。


もう10年くらい前かな。知人の家で新年会をしているときのこと。ミュージシャンやらマンガ家やらが集まっていた。そのなかに、Mさんという、俺の好きなマンガ家がいた。けっこう売れっ子だと思うよ。
その人が、ほろ酔いかげんになったときに、ふと「俺、昔、スピリッツが創刊するときに、誘われたんだよね」と問わず語りに漏らした。だけど、引き受けなかったそうだ。
「仕事の内容に入る前に、俺を口説きに来た編集者がこう言ったんだよね。『マンション建てましょう』って。で、俺、断ったんだよ。きょとんとしてたなぁ」
当時、俺は21か22ぐらいだったと思う。
その話を聞いて、2週間ぐらいスピリッツを読むのをやめた。あはは。


それから数年後。
俺がとある自主映画のコンテストで賞をもらったり、助監督をし始めたころかな。
大学のときの知人が電話をかけてきた。友人の友人で、特に親しいというわけではなかった。彼はテレビ局のディレクターになっていた。電話の用件は、「今度、新しい番組を始めるんだけど、相談に乗ってくれないか」というものだった。
俺は数日後、彼のマンションに出向いた。俺は当時年収200万円ぐらいだったから、同い年の知人が、立派な高層マンションに一人で住んでいることに素直にびっくりした。
で、その知人は訪ねていった俺に、いきなり切り出した。
「お前のいまの収入の倍ぐらい稼げる仕事なんだけど、やる?」
ああ〜。
俺は曖昧に笑って、「いまの仕事、やりたいことだから」と断ってしまった。
彼は、「アホか」というような顔をしていた。俺もアホみたいな顔をしていた。なんとなくそのまま彼の部屋で小一時間ばかり雑談をして帰ってきた。彼は、ふざけて、「いまからデリヘル呼んでおごってやろうか」などと言っていた。


あとから考えると、彼は彼で、善意だったのかも知れない。
俺はいまの仕事で、逆に金にルーズな業界人にうんざりしているから、仕事の話に入る前に金の話をするのは、社会人としてしっかりしてるんだろうな、と思う。


だけど、貧乏人の足元を見るような態度に思えたんだよな、あのときは。


自分の価値観を「当然」だと思って疑わず、それで自分よりも「恵まれていない」人間を「助ける」という態度に、腹を立てたのかもしれない。


あ〜あ。金持ちになるチャンスを逃したのかもなぁ。