『肌の隙間』と『帰郷』を観た

先日、ユーロスペースで『肌の隙間』を観た。瀬々敬久監督によるピンク映画……のはずだが、これを観て劣情を催す観客は皆無であると思われる。全然エロくない。というか、かなり引く。幽霊、もしくは宇宙人とのセックスはこんな感じだろうか。『SFセックス 異星人のえじき』はエロい映画だったが、本来宇宙人とのセックスとは、これぐらいグロテスクなものなのだろう。
主人公の少年がブラウントラウトを殺戮する場面と、もう一人の主人公の女が風呂場で身悶えして苦しむ場面とがカットバックで描かれるが、ここで俺は「あ、『E.T.』なんだな」と勝手に得心。しかし、瀬々監督はスピルバーグのような「失われた家族の再生」などというテーマに関心があるわけでもないので、最後まで宇宙人の女と、人間をやめた(やめさせられた? でもやめたくない?)少年とがわかりあうことはない。


その日は、『帰郷』の監督、萩生田宏治さんと、光石研さんがゲストとして招かれたトークショーだった(ちなみに客席には、アイドルの佐藤寛子さん、録音の菊池信之さんの姿があった)。


というわけで、翌日『帰郷』を観に行った。
あー、これ、紹介しにくい映画だ。観ればわかる、としか言いようがない。コメディなんだよね。たった一回のセックスで子どもができてしまった、と数年ぶりに再会した女に言われた三十代独身男性が主人公のマッチポンプコメディ。
西島秀俊のあの声、ちょっと内にこもったような独特な声、俺はいつも「なんか変な音だなぁ。声帯がゴムでできてるのかな」とか失礼なことを思いながら聞いているんだけど、それがばっちりはまっていた。そうか、この人の声って、人との会話の場面で、際立って聞こえてしまうから、こういうふうにモノローグ的なお芝居の方が合ってるんだな。一人芝居というか、一人相撲。一人相撲映画。一人相撲なのに、必死な主人公。それを突き放しもせず、かといって必死に擁護するわけでもなく、適度な距離感で描いている。
これがハリウッド映画であれば、ラストは必死な主人公の思いを成就させる出来事になるのだろう。けれど、『帰郷』はそうではなく、一人相撲をとっていた主人公が、「ふう〜」と息をそっと吐いて、肩の力を抜く、そんなラストだった。「さて、前へ進もう」、そんな感じ。映画は90分弱で終わるけれど、この主人公は映画の外側の時間へゆっくりと出て行って、長い人生をゆっくりと歩きつづけるんだろうな。