『夢の丘』と『リアル』

アーサー・マッケンの『夢の丘』。これって……変な小説だよな。題材としては、芸術家志望の若者の夢と苦悩なんだけど……葛藤はない。
普通の「人間」の苦悩は、努力なり運なりで乗り越えられて、それで主人公は成功(もしくは失敗)を経験し、そのことにより「成長」を遂げる。が、この小説の主人公ルシアンは、「人間」じゃないんだよ。というと語弊があるか。でも、そうとしか言えない。だから、この小説はいわゆるビルドゥングスロマンではなくて、人間界に迷い込んだ「アウトサイダー」の絶望の物語なんだな、きっと。この苦悩に感情移入しようとしても、難しい。じゃあ普遍的じゃないかというと、そんなことはなくて、文学史にはこの系譜って確実にあって、自分が「人間じゃない」と感じてる読者というのは、実は一定数いる。
ルシアンがロンドンの郊外で、たまたまでくわした一人の女性に叫ばれてしまい、下宿やどに帰って恐る恐る自分の顔を鏡で覗く場面。ラブクラフトの『アウトサイダー』かと思いましたよ。どっちが先かわからないけど。
ここにキュンとなってしまった。
『リアル』は……きっと全国でみんな本屋に走ったよね。いわずもがな、井上雄彦の傑作スポーツマンガ。泣ける泣ける!1巻から全部読み直し、また泣く。そして読み終えて、「また一年待たされるのかよ〜!」と憤りつつ、来年まで生きる理由が一つ増える。
「勝つ」か「負ける」じゃなく、「勝ちたい」という思いこそが尊いんだ、ってのがもう理屈じゃなくて感情のレベルでビシビシ伝わってくる。
あ、内田樹のエッセイを思い出した。あっちは身体の話だったけど、たしか「自分の身体を大事にできない人間は、他人の身体も大事にできないから、尊敬できない」というような内容(うろ覚え)。
3巻の冒頭のエピソードってそういうことだよね。自分を馬鹿にするようなやつは、仲間に水かけられちゃうし、敵を余計に怒らせるんだよ。
ふう。熱くなってしまった。