呼ばれた!

昼過ぎに、クラップのマスター一家と一緒に井の頭通り沿いのジョナサンに行って、お茶をした。ちょうど行く途中の井の頭通りで、合流。若大将は相変わらずすべての車に向かって「かめはめ波」を発射するしぐさをしていて、交通量の多い井の頭通りを歩くのは、なんだか大変な仕事のようだった。律儀にすべての車を相手にしてるんだもん。
最近、若大将は言葉らしきものを発するようになってきた。言葉というよりはオノマトペなんだけど、日本語の音の連続として聞き取れる。「ママ」「アチ」「トト」……とかとか。
で、今日、俺がドリンクバーに行くために席を離れたら、背後から若大将が叫んでいるのが聞こえた。はじめそれは、なんだかわからないただの絶叫に聞こえたんだけど……「タケー」って呼んでるんだよ! なんだこの喜び? ただ呼ばれただけなのに。名前を呼ばれるって、一番単純なことなんだけど、だから一番嬉しいことなのかな。なにかを伝えようとしているわけではないんだけど、こっちの心を大きく動かしてしまう、そんな呼び声だった。
きっと人を動かす言葉というのは、根源的にこういう「呼び声」なんだろうな。「話し合えば分かり合える」っていうのは、半分は嘘だ。お互いにただ「正論」をぶつけ合うだけでは、人は決して分かり合えない。お互いにお互いを「呼ぶ」ようなコミュニケーションができたとき、そこには「話し合い」がある、と初めて言えるんじゃない? なんて考えちゃったよ。
俺は、若大将が俺を呼んでくれたみたいに、誰かのことを呼ぶことができているのかな? って思ったら恥ずかしくなった。